2019/08/05

見るからに知的な雰囲気を漂わせた人に出会うと、思わず手をのばして握手を求めたくなる。
近頃では物事を冷静に知的なまなざしで判断するという姿勢に欠ける人たちが多く、私は少々疲弊気味だった。知的な怠慢が大手を振って歩く世界は、一見すると肩の凝らない風通しの良さが感じられるが、ちょっと人けのない場所に行くとたちまち目つきの悪い人々に囲まれて金品を奪われてしまう。やはり人間の本性は卑しいものなので、大学へ通うなどして高度な教育を身につけておかないと、たちまち他人の心を傷つけるような配慮に欠けた行動をとってしまうのである。
だから知的な雰囲気のある人を見ると、
「他にも知的な人たちがたくさん集まっている、そんなサロンのような場所が近所にあるのだろうか?」
そんなことを考えてつい後をつけていってしまうのである。
だが足音を忍ばせてこっそり尾行した挙句に、その人がコンビニで漫画やエロ本などを立ち読みし始めたときには心底がっかりしてしまう。
「いかにも知的な外見に思えたのも見掛け倒しで、実際には漫画やエロ本の読み過ぎで近眼になっていただけなのか……」
そううっかり声に出してつぶやいてしまっても、その人は我を忘れて立ち読みに没頭しているので、トラブルになるような危険もないのだ。
こちらから声をかけて握手などしなかったのは幸いだったと云えよう。うっかり話が弾んで親しみを感じた挙句「友達を紹介するよ」などと云われ、知的な人々のサロンだと思って訪ねた先が漫画やエロ本愛好家たちの集いだった場合、どうやってその場を立ち去ればいいのか見当もつかない。
差別はいけないことだと頭ではわかっていても、一刻も早くその場を去りたいという気持ちが顔に出ることを、抑えられる自信はなかった。
もっとも、その場にいるような人々は漫画やエロ本を読むことに夢中になっており、そんなインテリの良心の葛藤になど気づくはずもないのだが。