2018/12/02

目の前をおじいさんが歩いていたので「あ、おじいさんだ!」と声に出したところ、「失敬な! わしはまだまだ若いのじゃぞ」と顔を真っ赤にしたおじいさんが杖を振り回して追いかけてきた。
私はあわてて信号の点滅しはじめた横断歩道を駆け抜けた。ふりかえるとおじいさんがまだ追ってくるが、腰は曲がっているし足元はおぼつかなく、息をゼイゼイいわせて道路の真ん中で電池切れのように動かなくなってしまった。
そこへ信号が変わって飛び込んできたトラックがおじいさんに激突。宙高く跳ね飛ばされたおじいさんは、近所のミッション系大学のキャンパス内へと消えていった。
そっと中を覗いてみると、きらびやかな飾りつけをされた巨大なモミの木のてっぺんに、モズの早贄のように突き刺さって手足をばたつかせているおじいさんの姿があった。
とても信心深そうな学生がそれを見上げて十字を切り、
「主は、私たちのすべての咎を彼に負わせた……」
そっとつぶやくのを、私はけっして聞き逃さなかったのである。