2019/01/06

歩いていたら空き地があって、そこに生えた雑草をむしって食べている女がいた。
「どうして雑草なんか食べてるんです? お腹を壊しますよ」
私がそう声をかけると、女は怪訝そうにこちらに目を向けた。
「雑草? 何のことです? 私はピアノを弾いてるんですよ」
そう言って女はまた地面から雑草をむしって熱心に口に運んだ。
ピアノなどどこにも見当たらなかったが、そう言われてみると心地いい音色がどこからともなく聞こえてくるような気がした。
「何という曲ですか?」私は訊ねた。
「ショパンの『子犬のワルツ』です」
雑草を噛みながら聞き取りにくい声で女は答えた。
「次は、私の作曲したオリジナル曲をご披露いたしましょう」
女はそう言って場所を移動すると、さっきとは違う背の高い草をむしって食べ始めた。
やがてどこからともなくありきたりで退屈な、どことなく不快感をもよおすメロディが聞こえてくるような気がしたのだ。
どうやらこの女、作曲の才能はないらしい。