2019/08/28

この社会では毎日さまざまな場所で誰かが働き、また別の誰かは休暇を取ったり、休憩時間に入るなどして交替で世の中を支えていると云われている。
私のような、大きく分けてインテリに分類されるタイプの人間はそうした世の中の営みの中では、まるで一年中休暇を取っている結構なご身分だと勘違いされやすい。
むろん、私が公園のベンチに座って目を閉じ、気持ちいいそよ風に吹かれているのは別に昼寝をしているわけではなく、我々がどれだけ努力しても逃れられないこの世の苦しみを、少しでも軽減させる方法を求めて真実への思索の旅に出ているのだ。
「だが、今日もまたこの旅は徒労に終わったようだ。それでもひとつひとつ道を塗りつぶしていくような地道な努力を続けなくては、未来の人々へ手渡すべきバトンを途中で投げ捨ててしまうも同然なのだ」
そう神妙につぶやきながら腰を上げると、辺りはすっかり暗くなっており、目を閉じていたときと景色はさほど変わりがない。
そこへ誰かが散歩させているらしい一匹の小犬が、尾を振りながら近づいてくるのが見えた。
あまりにも可愛らしい小犬だったため、いったいどんな人が飼い主なのだろう? きっと心優しくて可愛いものが大好きな人物なのだと思い、興味津々で視線を向けた。
だが長く伸びたリードはまるで凧揚げの糸のようにまっすぐ公園の外へとのびて、そのまま闇の中へ消えていた。
「この犬の飼い主は可愛い犬を飼うような人ではあるが、散歩へ連れていくのが面倒なばかりにとても長く伸びるリードを入手し、家の中にいるままで犬を散歩させているのかもしれない。だとすれば、その人は可愛い物好きではあっても、けっして心優しいとは云えないだろう。それらの美質は、一人の人間に同居しているとは限らないのだ……」
私はそう考えた途端に、目の前で尾を振る小犬までがなんとなく汚らわしく思えてきて、そのまま頭を撫でたりすることなく無視して公園を出ていった。
今にして思えば、大人げない行動だったと思わないでもないが。