2019/08/27

どこか高い塔のような場所に登って、そこから世界を見渡したいという欲望が、あなたにはないだろうか?
私にはある。それがどんな辺鄙な場所にある塔だとしても、そこから世界が見渡せるなら電車やバスを乗り継ぎ、最後には徒歩で山道を歩いてでもたどり着きたいという気持ちがあるのだ。
だがそんな辺鄙な場所にある塔は、どれほど高くとも周囲の景色は単調で、いくら眺めがいいとはいえ、何もかもが遠くにありすぎて意味がないということにもなりかねない。
だからやはり登るべき塔は都会とまでは云わずとも、都心から電車で一時間以内の場所にあるのが望ましいような気がする。
そんな塔になら、わざわざ早起きして出かけてでも、日没まで心ゆくまでそこから世界を見渡したいというのが偽らざる本音だ。
みなさんもそんな私の気持ちを理解して、賛同してもらえるような気がするが、
「それなら、休みの日に駅などで待ち合わせて一緒に塔に登りましょう」
などと提案する気持ちになれるかというと、なかなかそうはいかないのが現実だ。
やはり「高い塔から世界を見渡す」という経験は、大勢で押しかけてわいわいと騒ぎながらするものだとは、どうしても思えない。一人で展望台に立って、無言でじっと眺めるのがふさわしいということはどうしても譲れない点だ。
だからこちらから質問しておいて大変申し訳ないのだが、高い塔に登ってそこから世界を見渡したいという欲望をあなたがお持ちの場合、
「勝手に登って、眺めて下さい」
としか私からは云うことができない。
そのことが今は心苦しく、窓の景色もどこか物憂げに見えてしまう。