2019/08/22

ある家の屋根の上にカラスが一羽とまっていた。
「あれはカラスだな、全身が黒いから」
私は思わずそうつぶやいていた。
「今にきっとカーと鳴くぞ、何しろカラスだからな」
だがいつまでじっと見つめていても、カラスはいっこうに鳴く様子を見せなかった。
だんだん苛立ってきた私は、地面の小石を拾い上げるとカラスに向かって投げつけた。
見事に石がカラスに命中し、カラスはその瞬間「カー」と鳴いた。
私は満足して何度も心の中でその鳴き声を再生しながら帰途についた。
だが心の中で再生された音量が大きすぎたせいか、そのカラスの声は私以外にも聞こえていたようだ。
私の心の中でカラスが「カー」と鳴くたびに、道行く人が驚いたようにこちらを振り返るのである。
だがすぐに何事もなかったかのように目をそらすので、大して気にはならなかった。
カラスがあんなに黒いのは、心に真夜中のような闇を抱えているせいなのだろうか。
時にはそんな質問を近くにいる人に投げかけてみるが、誰からも答えは返ってこなかった。
あんなにありふれた生き物のようでも、みんなカラスのことを何も知らないに等しい。