2019/08/01

今日もまた大変な猛暑が続いていた。
こんな暑い日にうっかり外に出ると、ほんの数分間立っていただけで意識が朦朧としてくる。
かと思えば突然くっきりと意識のピントが合ってしまい、何事だろうと周囲を見ると、さっきまでとはまるで違う景色が広がっているのだ。
アパートの前の路地にぼんやり立っていたはずなのに、はっと気がつくとまわりには子供の頃によく遊びに行った近所の公園の風景が広がっていた。
その公園はすでに潰されて住宅が建っていることは、正月に帰郷したときに確認していた。だから私は単に空間だけでなく時間も飛び越えて、すでに存在しない公園に立っていたことになるのだ。
物珍しさにキョロキョロと首を巡らせていると、すべり台の上にいた子供が興味深そうに突然話しかけてきた。
「おじさん、手に持っているそれは何なの?」
思わず自分の手元を見下ろすと、私の右手にはまだ死んだばかりの温かいカラスの死骸がぶら下がっていた。
「これはカラスの死骸だよ」
私はそう云って死骸を掲げて子供に見せた。
「おじさんが殺したの?」
「まさか。カラスの死骸屋から買ったんだよ」
「いくらで買ったの?」
「三百円」
私は「どうせここは時空を超えた公園なのだから、発言の責任を問われることもあるまい」と思って口から出任せを並べた。
子供はいたく感心したようで、「さんびゃくえんならぼくもほしいな」とつぶやいた。
「それじゃあ、ただであげるよ」
そう云ってカラスの死骸を子供に押しつけると、私は公園の出口へと向かった。
だが外に出ようとするときにまた視界がぼやけてきて、気づいたら元通りアパート前の路地に立っていたのである。
周囲を見回すと、顔見知りの老婆が日なたにぼーっと立ち尽くしたまま笑顔を見せていた。
その片手には、カラスの死骸らしきものが洒落たハンドバッグのようにぶら下がっていたのだ。
それを見た私はすばやくアパートの玄関に飛び込むと、冷蔵庫にあった麦茶をがぶ飲みした。
まったくこんな糞暑い日は、少し外にいただけでおかしなことになる。