2019/04/09

いつもより長い時間散歩していたら、見たことのない場所に来ていた。ありふれた住宅地が無限に続くと思われた通りだが、ちょっと考え事をしている間に周囲はずいぶん荒んだ印象に変わり、割れた窓ガラスが放置された家々には人の気配が感じられない。
まるでゴーストタウンを歩いているような気分になった私の心は、急速に暗く沈んでいった。
「今すぐ来た道を引き返せば、ふたたび明るく華やいだ雰囲気の新興住宅地に出ることは間違いない。だが、それではこの廃墟のように荒廃した町の現実から目を背け、心地いいものだけに囲まれて生きたいと宣言しているも同然だ。救いようもなく悪くなっていくこの国の現実に対する誠実な態度が、改元を間近に控えた今は問われているのではないだろうか?」
そう早口で独り言を述べた私は、平成という時代の実情を目に焼きつけるべくゆっくりとした足取りで道を進んでいった。
もちろんどれほどゆっくり歩いても、私の足は平成の終わりを追い越して次の元号にたどり着いてしまう。幽霊の出そうな空家だけが並ぶ一か月間をさまよい歩いたところで、その日が来れば自動的に未知の時代で突然目を覚ましたように周囲は変わり果て、あらゆるものがフレッシュな輝きに満ちていることに気づくだろう。
今必死になって目に焼きつけた光景も、宇宙人に解放されるときの人類が皆そうされるように、記憶から洗い流されてそのとき私には何も残っていないのだ。
だとすればこんな無駄な散歩はやめて一刻も早く自宅に帰りたい。陰気な町を歩いて陰気な気分になったまま新時代を迎えることは、一人だけサンタクロースの扮装をしたまま新年を迎えるように滑稽で、場違いな姿に違いないのだから。