2019/04/07

「反出生主義という考え方は、まるで取るに足らない、くだらないものだと今すぐ断言できる。もしも『この世に生まれてこない権利』というものがあるとしても、すでにこの世に生まれている者によって主張される限り、それは金持ちが貧乏人に向かって『金なんて碌なものじゃないから、ないほうがむしろ幸せだ』と説くのにも似たいかがわしさを逃れることができない。あるいは『男性が作ってきたこの社会は碌なものじゃないから、女性は権力などという下らないものに関わらず、社会の外側で自由に羽ばたいてほしい』と述べる男のいかがわしさと同じだと言えばいいだろうか? その特権的な立場になって初めて言えることを、いまだそこに到ることを許されない人々の代弁者のごとく口にすべきではないのだ。まともな神経を持つ者なら慎むべき破廉恥な行為というべきだろう。それは結局、すでに『持てる者』の側からの驕りに満ちた、さらなる搾取をしか意味しないのである。ましてこの世に生まれていない者にインタビューする手段が現状存在しない以上、そこでは当事者からの反論が一切封じられている分、悪質さもひとしおと言わねばならない……」
道を歩いていたらむこうから歩いてきた無表情な男性が私の前に仁王立ちして、そのような興味深い発言をし始めた。
男性は胸のポケットに小鳥を一羽入れており、彼が熱弁をふるっている間小鳥はまるでBGMのように美しい声で鳴き続けたのである。
だがよく考えてみれば、喋っているのは実は小鳥のほうで、BGMのようにさえずっていたのが男性のほうだったとしても全然おかしくはない。それらは同時に聞こえていた以上、正確に聞き分ける方法は存在しなかったし、二つで一つのハーモニーを奏でているという意味で、けっして切り分ける意味などないものなのだから。