2019/04/05

公園の日なたのベンチで、どこにでもいるような老婆が居眠りしていた。その膝に広げられた新聞には、いくつかの事件の見出しが特売品の商品名のように躍っていた。
あれだけの年齢を重ねる間に、多くの事件の詳細を見聞きしてきた老婆にとって、新聞はまったく退屈で眠気を催すほかないしろものなのだろう。
そう一瞬思ったものの、よく考えたら老婆は居眠りしているわけではなく、二十一世紀にもなっていまだこの世に血生臭い事件の絶えないことを今さらのように思い知らされ、ショック死しているところなのかもしれない。
そんな不安が心に芽生えたため、私は背中に汗が流れるのを感じながらベンチへと近づいていった。
するとしだいに老婆の寝言が聞こえてきたので不安は解消され、ほっとした私の耳にその寝言が流れ込んできた。
「プロ野球の投手はその職業柄、酷使される利き腕がもう一方の腕の三倍ほどの長さがあると聞いたことがある。そのため衣類はすべて特注品だし、日常生活でも不便極まりない(箸やスプーンが非常に遠くなる)という話だが、それでも球界入りする人間が後を絶たないのは、衣類を特注しても有り余るほどの給料が保証されているからなのだろう。そのかわり、引退後の生活は悲惨そのものなのだが、昼夜問わず野球ばかりしてきた彼らの脳には人生設計をするためのスペースが確保されていないのだ……」
そう語った老婆の顔が苦渋に満ちた表情になった。私はその顔から固く絞られた雑巾を連想した。