2019/04/13

貧困を確実に終わらせる方法は存在するが、その方法が記された本を手に入れるには顔から血の気が引くほどの大金が必要とされる。
結局のところ、人類の叡智が導き出した結論はいつもそのような行き止まりに突き当たるのがオチなのだ。
つまり「貧困を確実に終わらせる方法」の書かれた本が大幅に値下げされたり、無料で広く人々に行き渡った途端に、それはただの無意味な紙の束に変貌してしまうことが分かっている。
だから貧困から抜け出るためには、「貧困を確実に終わらせる方法」の書かれた本を買うために無謀な借金をするか、警報付きのガラスケースを叩き割ってその本を万引きするしか方法がない。いずれも目も当てられない悲惨な結果につながる可能性が高く、一か八かの賭けになるが、「貧困者が貧困であるのには理由がある」というこの世の手堅い法則の世界を自分の周囲だけでも揺さぶるには、そのような蛮行に打って出るほかにないからだ。
もちろん、多くの場合挑戦は失敗に終わり、以前よりもさらにひどい貧困の未来へと転げ落ちることになる。そのように転落していった者たちの手放したわずかな小銭の積み重ねが、ごくまれに賭けに勝った者の懐へ飛び込むことで貧困からの一時的な脱出が実現するのである。
何のことはない、ここで富裕層はあくまで「貧困脱出ゲーム」の高みの見物人や胴元であり、このゲームで彼らの懐が痛むことなどありえないのだということを、貧困者は肝に銘じておく必要がある。
つまり貧困脱出は世界中に遍在するゲームとしてあらかじめ金持ちたちの手で登録されており、そのための情熱はもれなくコイン投入口に吸い込まれる仕組みが完成しているのである。
「この世からすべての貧困を終わらせる方法」がどうしても見つからないのはそのためだ。
考えれば考えるほど着実に絶望に追い込まれていくだけの我々にできることと言えば、すべてを平等に地を這うような貧困の世界へ引きずり落とすため「富裕を確実に終わらせる呪文」の印刷された紙片を大量に用意し、あらゆる裕福そうな玄関先に手分けして配達することくらいだ。
途中で紙や印刷代が不足した場合、 木の葉などに呪文を手書きしてもいいだろう。