2019/04/19

体育館のような所に集められたので、何かの集会が始まるのだろうか? と思ったが壇上をじっと見つめていてもそこにマイクが設置されたり、人が現れるような気配は感じ取れなかった。
「これは何かの集会なんですかね?」
近くに座り込んでいた子供のような顔つきの、よく見ると皺の多い中年男がそう話しかけてきた。
「そうなのかな、と思ったんですがどうやら違うみたいですね。全体に照明も暗いままだし」
そう私は答えてもう一度壇上に視線を向けたが、何かを準備している様子はやはり見られなかった。
そもそも私たちをここに誘導してきたはずの背広姿の男たちもまた、今ではジャージ姿でその辺りに座ってすっかりくつろいでいる。
「ここにみんなを誘導したら背広脱いでいいから、後は適当に待機しててって言われたんで」
まわりの者に質問攻めにされた彼らは、面倒くさそうにそう答えたのだ。
だから体育館の床に座って事情もわからぬままぼーっとしているこの十数名のほかに、何かを説明できる人間はここに存在していないのだ。
じつに不安な状態だし、見方を変えればスリリングな手に汗を握るシチュエーションに置かれていることを楽しめるのかもしれない。
この体育館がじつは宇宙船のようなもので、われわれは地球外の生物に騙されて誘拐され、これから一生を実験動物として過ごすのでは?
そんな空想をうっかり口に出したところ、周囲の人たちの耳に入ってにわかにざわつき始めた。
「おれは実験動物になるのなんて嫌だぞ! いったい宇宙人の人権意識は どうなってるんだ!?」
子供のような顔つきの中年男がそう叫ぶと、いきなり出口に向かってダッシュしていった。
つられてジャージの男たちもダッシュし、他の人たちも次々と立ち上がるのを見て私もあわてて腰を浮かせた。
だが少し考えてふたたび床に腰を下ろすと、そのまま全員が館外に姿を消すのを見守ったのだ。
まだ実験動物になると決まったわけではない。もしかしたら未知の惑星で来賓として大変な歓迎を受け、豪華な食事やホテルなどが提供される可能性があることに気づいたからだ。
私はじっと腕組みしたまま、遥かな出発(たびだち)のときが来るのを待ち続けた。