2019/04/18

目の前で肉を食べている人がいた。
「何の肉なんでしょうね、これは」
私は独り言を言った。
目の前の人は無言のまま肉を食べ続けていた。
「私はもうどれくらい肉を食べていないのだろう?」
私の独り言は続いたが、目の前の人の食事の勢いは止まらないようだった。
「肉を食べる人は、食べない人と較べて確実に寿命が短いという話ですけどね……」
私が少し語気を強めて言うと、目の前の人は一瞬肉を食べる動きを止めた。
だが、すぐにまた今まで通り肉を口に運び始めたのである。
皿の上に山のように……文字通り死体の山だ……積まれていた肉は、すでにあらかたその人物の胃の中へと消えてしまったようだ。
もちろん、肉を食べる人間を何か残酷なことをしているような目で眺めたり、非難がましく睨みつけるのは何らかの差別に加担する行為として慎まなければならない。
たとえ食されているのが人肉であったとしても、食肉化した当人との間に合意が認められる限り、それを第三者がとやかく言うべきではないのだ。むろん、事前に同意書などを作成してそこに何ら暴力的な不均衡が生じていないことを、世の中に証明する義務があるのだが。
そして目の前で今すべての食事を終えた人が胃袋に収めたのが人肉だったことは、最後のほうで皿の上に見かけた部位の形状などから明らかだ。
私はそれを批判する気などまったくないし、あらぬ誤解をされないよう表情や視線などには十分気を付けたつもりだ。
ただ正直なところ、さっきまで刺激されていた食欲は今では跡形もなく消え去っていた。
私は差別的な心の持ち主なのだろうか?