2019/04/01

近所のコンビニの店長に影武者がいるという話を最近耳にした。
「こんなことを言っては大変失礼かもしれないのですが、コンビニの店長さんに影武者が必要だとはどうしても思えなくて、おそらく根も葉もない噂だろうというふうに私は判断してるんです」
長年に渡って店長だと信じてきた中年男性に向かって、私は率直にそう自分の意見を述べた。
すると男性はどこか意味ありげな笑みを浮かべ、こう答えた。
「なるほど一般の方にはそう見えているのかもしれませんね。ただ業界内部の人間として言わせていただければ、いまやコンビニは戦国時代を迎えているというのが通説です。戦国武将に影武者という存在が付き物なのは、日本史に関心のある方なら誰でもご存じではないでしょうか? そして一国一城の主という意味では、コンビニ店長と武将は意外なほど似通った存在だということも可能なのです……」
そう言いながら彼がふと視線を雑誌コーナーの方に向けたので、私はハッとして後ろを振り返った。
この店に来ると必ずエロ本を立ち読みしているのを見かける、いかにも清潔感に欠けた性犯罪の前科のありそうな初老の男が視界に入った。
もしやあのエロ本好きの男こそが本物の店長であり、目の前にいるのは単なる雇われた影武者なのでは?
そんな疑惑の目で雑誌コーナーを凝視すると、立ち読みの男はヌードの印刷されたページから一度も目を上げぬままかすかにうなずき、私の推理への同意を示したのだ。
オリンピックを機にエロ本コーナーが廃止されるのは時間の問題だが、その後「本物の店長」はいったいどこに自らの居場所を求めるのだろう?
今や私には、ただそのことだけが気がかりなのだった。