2019/03/30

夜がくるたびに外の景色は闇に包まれ、ほとんど何も見えなくなってしまう。そんな単純な変化のくりかえしでさえ、何らかの意図で演出されたわくわくするショーの一部に思えて、無意識のうちに窓から身を乗り出している。
近頃そのような心理状態になったことはないだろうか? それは季節の変わり目が見せる幻のような期待感が、一種の「頭の中の劇場」の観客席にあなたを座らせた結果なのかもしれない。
もちろん、単に違法な薬物などの影響で異常な興奮感覚に陥っているなら、話は別だ。すぐにでも薬物と手を切って、健康な生活を取り戻すことの方が大事なのだ。
もし薬物などを摂取していないと断言できる場合、高揚した気分に任せて、たとえ夜間であっても少しばかり外出を試みる価値はあると思える。
人々が寝静まった家が並ぶ中を、一本の木の幹のように夜道が続いている。そのまま真っすぐ木のてっぺんを目指して進むのも、横に曲がって左右の枝に寄り道するのもいいだろう。
ただし一本の木の外へ飛び出してしまうのは危険である。深夜はバスや電車などが動いていないし、タクシーを利用して思わぬ出費になるのも痛いところだ。その気になれば元来た道をたどって、すぐに家に引き返せる範囲にとどめるのが、夜の外出の秘訣である。
もちろん、あえてスリルを味わいたいという人を止める権利は私にはない。あくまで自己責任で、街灯のひとつもないあぜ道などに歩を進め、手さぐりで「この世の深い闇の中心」への接近を自らに許すこともまた、この人生の醍醐味には違いないのだから。