2019/03/21

上空をヘリコプターが旋回する音が聞こえてくると、何らかの事件が発生しているのだと感じてつい浮足立ってしまう。
「私も出動しなくていいのだろうか?」
そんな焦りが文字になって心に浮かぶのも確かだが、私の携帯電話はここ数ヶ月ほど鳴っていないような気がするし、おそらく出動要請は出ていないのだと考えるとほっとして、ひとまずお湯を沸かし、コーヒーを飲むことにした。
とはいえ、いつ誰から緊急連絡が入って何らかの切羽詰まった現場へ急行しなければならないか、予想がつかないのも事実なのだ。だからのんびりドリップしている余裕はないのであり、コーヒーは常にインスタントを愛用している。
「最近のインスタントコーヒーは、けっして馬鹿にできない味と香りを実現しているような気がする。つねに売り上げという形で消費者からの評価にさらされている企業は、ちょっとした手抜きも許されない努力を義務付けられているようなものだ。競争原理が満遍なく覆い尽くした資本主義の社会において、品質と低価格の両立には目覚ましいものがあるが、それは下請けの工場で労働者が低賃金で奴隷のように酷使されている現実と表裏一体であることもまた、けっして忘れてはならないだろう」
そこまできちんと自分の意見を述べた後で、私はコーヒーカップに口をつけた。やや冷めかけていたが、私にとってはこれでもまだ熱すぎるくらいなのである。
カップの表面には大きく「猫」という文字が描かれている。もちろん、「猫舌」の「猫」だ。