2019/03/20

私の住むアパートには地下室がある。そのことを普段は忘れているが、たまに思い出すことがある。そしてまた、すぐに忘れてしまう。
思い出したところで、とくに地下室に用はないから訪ねることはないし、そもそもそこは私が借りている部屋ではないのだ。だから自分とは無関係なのだと思うと、すぐに意識から消えてしまう。
おかげで自分の住むアパートだというのに、そこに地下室があるのだということを思い出すことなく日々を過ごしていて、自分のアパートを思い浮かべるときは決まって建物の一階と二階だけだ。それだけではどこか物足りない、という気持ちになることもたまにはあった。せいぜい一年に二、三回くらいなのだが、そのときはもしかしたら地下室のことが無意識のうちに引っかかっているのかもしれない。
地下室のあるアパートというのは珍しいし、人に話せば感心されたり、くわしい話を聞きたいとせがまれることも予想される。実際に地下室に足を踏み入れたい、という希望者もいてもおかしくないだろう。
だがよく考えてみれば、地下というのは暗くて息が詰まるような厄介な場所だ。誰だって死ねば頼まなくても地面の下に収納されるのだから、わざわざ生きているうちに地下を訪ねる必要もあるまい。
私はそう答えて地下室の話題を唐突に打ち切ると、「春の訪れを歓迎する歌」を歌い始めた。
私が今日の昼頃に作詞・作曲した明るい曲調の歌だ。