2019/03/17

メディアに登場する人たちはみなどこか人形のように生気に欠け、あらかじめ与えられた動きや言葉を律儀になぞっているだけのように感じられる。
それはドラマの登場人物などに限らず、ニュース番組のコメンテーターにしても同じことだ。街頭で時事問題についてインタビューに答える一般人でさえ、中身は無数の歯車が噛み合って動いている、よくできた自動人形のようにしか見えないのである。
あれではまったく、この社会に生きる人々の本当の声が伝えられているとは言いがたい。メディアは自らの本来の役割を放棄し、権力者の夢見る世界をおとぎ話のように再現することに専念しているのだろうか?
そんな暴挙が許されるべきではないと気づいた私は、たちまちアパートの玄関を飛び出すと、いかにもテレビのインタビュアーが現れそうな繁華街の人混みへとやって来た。もちろん、見落とされがちな市民の真実の声をメディアに乗せるためだ。
雑踏の中でしばらく周囲に目を凝らしたが、マイクを手にした人の姿は見当たらない。そのときビルの陰から見覚えのある顔の女性が現れたので「テレビで見た人かもしれない」と思ってじっと目で追ったところ、その女性もじっとこちらを見返してきた。
そのまま十秒間ほど見つめ合ったのち「近所のコンビニの店員だ」と気づいた私は視線を外し、ふたたびインタビュアーを探すことに集中した。