2019/03/13

これといって仕事をしていない人間の特権として、
「思い立ったときにいつでもすぐに旅に出られる」
というのがあるのをご存じだろうか?
もちろん、仕事によって得られる収入がないのだから使える旅費には限りがある。なるべく交通機関を使わず徒歩で移動し、徒歩が難しい距離の場合は自転車や、ヒッチハイクなどの手段を用いるのがいいだろう。
もちろんホテルなどに高額の宿泊料を払うことは不可能だ。なるべく日帰りを心がけ、どうしても日をまたぐときは知り合いの家にお邪魔するか、親切そうな人を見つけたら後をついていき、玄関を入ろうとするところを引き止めて必死に懇願すればたいていの人は笑顔で泊めてくれる。
そんな出会いがきっかけでのちには家族ぐるみの付き合いになり、毎年年賀状のやりとりをする人などもどんどん増えていくものだ。
だがいつも年賀状を出している住所をヒッチハイクでひさしぶりに訪ねてみたところ、そこはもう何年も前から更地で、雑草が生い茂っている殺風景な土地に変わり果てていることもある。
では、私にいつも飼い猫の写真の印刷された微笑ましい賀状をくれる老夫婦は、いったいどこに存在しているのだろう?
そんな答えの出ない疑問に頭の中を占領されながら、この人生という長い旅もまた続いていくのである。