2019/03/25

無職の人間は毎日が休日だと思われがちだが、けっしてそんなことはないのだ。
それは会社員が本来所持しているはずの有給休暇を消化する権利を、職場の人員不足などの事情によって不当に奪われていることと似ているかもしれない。
無職の人間にも、毎日のようになんらかの仕事の命令が匿名で届けられる。それは郵便受けにメモ書きのかたちで投函されていたり、枕元の壁に貼り紙されていたりとさまざまな方法で伝えられるのだが、正式な雇用ではないから従ったところで給料などは振り込まれることがない。
そのかわり、豆腐や卵といった栄養のある食品や、トイレットペーパーなどの生活必需品が玄関先や枕元などに数日後に届けられるのだ。いずれも無職の身には大変ありがたいものばかりであり、ついどんな仕事でも請け負ってしまう。
仕事の内容はと言えば、
「公園の池に小石を三個投げ込んだのち、西側の出口を飛び出して最初に目に入ったトラックの荷台に忍び込め。やがて出発したトラックが赤信号で停車したところですばやく飛び降りて、近くのピザ屋へ飛び込み『ピザいりません!』と叫んだのち店を出たら右へ走れ。むこうから黒い犬を散歩させている老婦人が歩いてくるから、犬に丁寧に挨拶して終了報告をするように(老婦人にではないので注意)」
といったことが書かれているので、慣れないうちは戸惑うかもしれない。
だが何度か仕事をこなしていくうちに「こういう仕事内容は組織の中で甘やかされた会社員などには向いていない。やはり我々のような立場の者が担わなければ、この社会全体がうまく回っていかないのだろう」という気持ちになり、朝起きると自然と貼り紙を探すようになるのだ。