2019/01/30

私はもう十年以上満員電車には乗っていないような気がする。あれは通勤する人々が同じ時間帯に集中するために起きる現象だが、おそらく一時的に社会人気分を味わいたいという動機の無職の人々も先を争ってドアに飛び込んでくるので、朝夕の車内は殺人的な混雑になるのではないか?
そう考えていると私もその一員に加わりたくてたまらなくなり、すぐに最寄駅へ向かおうとした。だが私のアパートからは二つの駅へ徒歩で行くことができる。はたしてどちらの駅へ向かうべきなのだろうか、という悩みに私は襲われた。同じ料金を払うなら、より混雑度の高い電車に乗りたいからだ。
それに考えてみれば、単に物見遊山の気分で満員電車へ押しかけるのは、ただでさえ暗い気分で通勤するサラリーマン・OL諸氏にとって迷惑きわまりない話なのかもしれない。そう思うとなんとなくうしろめたい気持ちになり、私は外出を断念せざるを得なかった。
電車賃ならどうにか工面できるが、サラリーマンのふりをするためのスーツなどを手に入れる資金はどこにもない。もしも誰かが貸してくれると申し出たなら、改めてチャレンジしたいという気持ちはあるのだが。