2019/01/29

「私はシュークリームがとても好きなのですが、シュークリームが私のことを好きかどうかはわからない。こればかりは確かめようがないんです。はたしてこういうのも片思いと言うんでしょうかね……」
公園のベンチでシュークリームを食べようとしているとき、たまたま目の前を通過しようとしていた人に私はとくに理由もなく語りかけていた。
するとその初老の男性はしばし立ち止まって考えた後、こう答えた。
「わからないなどと簡単にあきらめてしまわず、何度も同じ質問をくり返してみたらどうです? おそらくあなたはいつも返事がある前に、相手を食べてしまっているのでしょう。それでは真実は永久に闇の中だ。もしかしたらもう一度質問すれば相手は今度こそ心を開いて、あなたの望む返答をくれたのかもしれませんよ。もっとも、あなたの聞きたくない方の答えが返ってくる可能性も無視できませんが……」
男性は私を気の毒そうに眺めると、ゆっくりと西側の出口の方へ歩いていった。
その方角には高級住宅街が広がっていることを私は思い出した。やはり経済的に恵まれている人は心も豊かで、見ず知らずの人間の問いかけにもきちんと向き合って答えてくれる。何らかの悩みがあるときは迷うことなく高級住宅地を訪れ、目についた玄関のインターフォンを押して相談してみよう。シュークリームをパクつきながら、私はそう心に誓ったのである。