2019/01/09

結局世の中は金なのだ。私が海外旅行はおろか、この十年以上国内旅行さえしていないのは金がないからであり、年金や税金などを滞納せずきちんと収めた瞬間に住む場所を失い餓死が決定するのも、全然金がないからなのである。
金が欲しい……金さえあれば……そううわ言のようにつぶやきながら歩いていると、私の声にこたえるかのように風にのってこんな噂が聞こえてきた。
「この世界のどこかには象象街という町があって、そこへ行けば気前のいい町長さんが城塞のような家の窓から地上に群がる貧民たちに向かって札束を面白いように次々と投げ落としてくれるらしい」
そんな夢のような話があるのかと驚いた私は、さっそく象象街を探しにいった。
いくつもの川や山を越えて探し回るうちに、とうとう私はその町にたどり着いた。
と思ったのだが、私の想像と違ってそこには象はいないし、ただ荒廃した空き家が並ぶ通りには、白骨化した死体が時々あるほかは、商店街の割引券が外れ馬券のように風に舞っているだけだ。
おそらく長年抑えていた欲望に火をつけられた貧民が暴徒化し、象の檻を襲って解放した結果、暴れ回った象がすべてを破壊し尽くしたのだろう。
そう結論付けると私はすぐに踵を返した。
札束も象も見当たらない町にはとくに用はないからだ。