2019/01/27

隣の家の屋根が、なんとなく人間の髪型のように見えてきた。なぜか今まではそんなことを感じたことさえなかったのだが、四十代くらいの堅実なサラリーマンの髪型にそっくりなのだ。
「まるで首まで地面に埋められたサラリーマンがすべてをあきらめて現実を受け入れ、静かに時間が過ぎていくに任せているかのようだ」
それが私の口から出てきた感想だった。そのような家屋に実際に住んでいる人々はいったいどんな気持ちなのだろう。私は好奇心を抑えきれなくなり、隣家の玄関前に立つとチャイムを鳴らした。
ドアが開いて、主婦らしい女性が「何でしょうか?」と訊ねたので、私はここまで述べてきたようなことを率直にその女性に説明した。
「ええ、もちろん我が家の屋根が四十代くらいの堅実なサラリーマンの髪型にそっくりなことは知っています。それが意図したものだと思われたら心外ですが、ふと目を向けた瞬間にそう見えることを楽しんでもらえたら、こんな大変な世の中で我が家のそばを歩くという偶然で結ばれた通行人へのちょっとしたプレゼントにもなるかなと思っています」
女性はいかにも誠実な人柄らしい口調でそのように話し、おもむろにサンダルをつっかけると外に出た。
そして自宅の屋根をまぶしげに見上げながらため息を漏らし、満足げにうなずくと家の中へ消えていったのである。