2019/01/23

「この世には真に議論されるべき問題が山積みなのに、人々は目先の対立に気を取られ、売り言葉に買い言葉の不毛な罵倒合戦をくりひろげている。絶対に分かり合えない他人とも同じ会議のテーブルにつき、理性的に長時間話し合うことで未来を少しでも明るいものにしようという地道な努力は、現代では絶滅してしまったのだろうか?」
私はコンビニで新作の弁当などをチェックしているときにふとそんな考えが頭に浮かび、無意識のうちにそのまま口に出していたらしい。
隣で同じように弁当を見つめていた中年男性が驚いたように口を開いた。
「まさに今、私も同じことを考えていたところなんです。もはやこの社会では民主主義が日頃の話しあいの積み重ねだという常識が失われてしまった。選挙に行くことだけが民主主義への参加だと勘違いした層と、選挙にさえ行かない無関心層とに二分されてしまい、話し合いのかわりにネットでの誹謗中傷の応酬がえんえんと続く。あの不毛なエネルギーの百分の一でも使って、職場など現実の人間関係の中で問題提起をしていけば、世界はきっといい方へ変わるはずなのに……」
喫茶店でコーヒーでも飲みながら続きを話しましょう、と中年男性に誘われたが、私は即座に断ってすばやく店を出た。
赤の他人のくだらない持論を聞かされるほど地獄のように退屈なことはない。それに男性はいかにも貧乏そうな身なりなので、コーヒー代を奢ってもらえる可能性がゼロだったからだ。