2019/01/02

目の前の赤い服装の老婆が話を始めた。例によって昔話だ。人生経験に裏打ちされたけっして人を傷つけることのないユーモアが隠し味になっており、思わず身を乗り出すほど興味深い話だった。
老婆が語り終えると私は立ち上がって拍手をし、ぜひにと続きを促した。
すると老婆は満足そうに目を細めてうなずき、同じ話を最初から語り始めた。
だがなぜかその話には一度目ほどの魅力がなく、ありふれた年寄りの自慢話のように聞こえてしまう。首をかしげながら聞いているうちに老婆は語り終えてしまった。
こちらの微妙な表情に気づいたのか、老婆は焦ったようにまた同じ話を最初から語り始めた。
だが今度は二度目よりもさらに魅力が色あせていて、もはや聞いているのも苦痛なほど退屈なうわ言がえんえんと続いているとしか思えなかった。私は深いため息をつくと無言で席を立ち、その場を立ち去った。
数か月後、その老婆は誰からも関心を向けられないまま失意のうちに孤独な死を迎えたらしい。先ほど初詣の雑踏の中で誰かがそう話しているのが聞こえたのだが、こんな不思議な偶然もまた神様からの年に一度のお年玉なのかもしれない。