2019/01/16

とても背の高い、鉄塔のような男が歩いてきたので「このままでは踏まれるのでは?」と思った私は近くにあった民家に避難した。たまたま玄関の鍵が開いていたので、インターフォンで事情を説明するなどの手間がいらず、すみやかに家の中まで避難できたのである。
リビングには小柄な老婆が一人いて裁縫仕事をしていた。私が「とても背の高い男が歩いていたので、あわてて避難してきました」と告げると、好奇心を隠し切れない表情になった老婆は裁縫道具を放り出すと家を飛び出ていった。
やがて戻ってきた老婆はすっかり興奮の冷めた顔でこう言った。
「私も初めは大変背の高い男が歩いてくるのだと思い込み、昔からそういう男に興味があったので興奮を抑えきれなかったのだが、だんだん近づいてみると単に曲芸のように肩車をした人間の上にさらに肩車をした人間が乗っており、全体で十メートルほどの高さになっているだけだった。やはり私の生きているうちに、身長十メートルほどの人間を見ることはできないのだろうか?」
私はとんだ勘違いで老婆の心を掻き乱したことを謝罪すると、お詫びのしるしに未使用の使い捨てカイロを手渡した。
ジャンパーのポケットを探ったところ、それしか入っていなかったからだ。