2019/01/15

散歩してたら尿意をおぼえたので、私は近くの公園にあるトイレに駆け込んだ。
用を足しながら最近思いついたジョークを練習のつもりで口にしたところ、背後からワッハッハッハッという陽気な笑い声が聞こえてきた。びっくりして振り向くと、ドアの閉まっている個室があるのでどうやら先客がいたらしい。真夜中だから油断して見落としたようだ。
私はドア越しに丁重に挨拶の言葉を述べると、先客に今しがたのジョークの感想を訊ねてみた。
だがドアのむこうからは依然として笑い声だけが響いている。なんとなく口ひげを生やした壮年男性の笑い顔が思い浮かんだ。どんな質問にも笑い声しか返ってこないので、不審に思った私が隣の個室から壁によじ登って覗き込むと、無人の個室の便器の蓋に小型のラジカセが載せられていた。笑い声はそこからテープで再生されていたのだ。
私はがっくりと肩を落としてトイレを出た。大して受けるジョークでないことは薄々自分でもわかっていたのである。
だが未発表のジョークを胸の中に多数貯め込んでおくことは、まるで他人へのプレゼントを選ぶために訪れた店のような不思議なときめきがある。