2018/12/23

玄関のチャイムが鳴ったので、いったい何事だろうとそっとドアを開けてみると、見知らぬ男が立っていて「忘年会をやるので来ませんか?」と言った。
じっと目を覗き込んだが、どうやら男は正気のようだ。手には忘年会を開く証拠だといわんばかりに琥珀色の酒瓶を抱えている。私は今年はあいにく忘年会の予定がなかったため、返事を待たず歩き始めた男の後をふらふらとついていってしまった。
すると突然男の姿が消えたので、驚いて駆けよると地面に深い穴が開いていた。男は穴の底から「ここが会場ですよ」と手を振っている。たしかにすでに赤ら顔になった人々が穴の中で馬鹿騒ぎをしており、その様子は一般的な忘年会のイメージそのものだった。腹踊り、裸踊り、一気飲み、……会場が少々狭すぎる点を除けば。
「急だったので予約してなくて、ほかに店が空いてなかったんですよ」
男はすまなそうな口調で言うと、照れたように頭を掻いた。
そのとき横で高級そうなワインを飲んでいた女が男に耳打ちするのが見えた。
一瞬はっとした顔になった男は、次の瞬間これ以上ないくらい丁寧な口調でこう言った。
「申し訳ありません、すでに満席のようです。恐縮ですがお引き取り願えますか」
私の心に蛍の光のメロディが鳴り響いた。