2019/10/25

すごいスピードで路地を通り抜けていく車がいた。車には誰も乗っていなかった。
「あれが噂の自動運転というやつか」
私は感心してそうつぶやいたのだが、ちょうどいいタイミングで向こうから歩いてきた男に即座に否定された。
「たまたま運転手の顔や着ている洋服の色が、座席と同じ色だっただけですよ。つまり保護色というやつです」
それから私と男は近くの公園のベンチに座り、この国における自動運転の未来について語り合った。
だが二人とも自動車免許を持ち合わせていないせいか、あまり実りのある対話はできなかったように思う。
失意のうちに私たちは公園の出口で別れ、それぞれの家路についた。
今では相手の顔も覚えていないのである。