2019/07/28

橋の上を歩いていたら急に怖くなった。
「今この橋が突然落ちたら、私は次の瞬間には水中にいることになるな……」
そんなことはどうしても避けたいと思い、私は全速力で橋を駆け抜けた。
ようやく橋を渡りきったところでふりかえると、橋は依然としてその姿を変えていなかった。
「何だ、橋は落ちてないじゃないか。この糞暑いのに全速力で走ったりして損した気分だ……」
ちょうどそこへ顔見知りのちょっと変わった女が通りかかった。
その女のどこが変わっているかというと、頭の上に常にとぐろを巻いた蛇を乗せていたのだ。
だが今日の彼女は、なぜか頭の上に蛇を乗せていなかった。
これでは他の人たちと変わらない、とくに個性のない平凡な人物でしかない。
だが女の話では、今日も家を出るときはいつものように蛇を頭の上に乗せていたらしい。
ところがあまりの猛暑のせいかだんだん蛇は弱ってきて、つい先ほどとうとう死んでしまったそうだ。
悲しげな顔で彼女が開いてみせたバッグの中には、もう二度ととぐろを巻くこともない蛇が無造作に詰め込まれていた。
彼女は今日の暑さを憎んでいるそうだ。
一生忘れない、とも云っていた。
たしかにそうだろうな、と私も思った。べつに誰が悪いわけでもないが、こんな日もあるのだ。