2019/07/24

でかい棍棒を片手に通りをうろついている人間がいるというので、私は大変警戒しておちおち外を歩けないなと思っていた。
もちろん棍棒を持ち歩いている人間イコール、棍棒で通行人を襲撃する人間とは限らない。何か用途があって棍棒を運搬している途中なのかもしれないのだ。
その場合はむしろ、重い棍棒を運ぶのを手伝ってあげるのが親切というものではないか?
そのことに気づいてハッとした私はあわててサンダルをつっかけると外へ飛び出した。
するとちょうど通りを向こうから歩いてくる男と出くわしたのである。
男は噂どおり棍棒を手にしているが、ちょっとした岩石のような筋肉で腕や肩が隆起していたので「これは手伝いは不要だな」とがっかりした私はそそくさとアパートへ帰ろうとした。
だがその直前に目に入ったのは、男の頭に巻かれた包帯だった。
「どうやら彼は頭部に怪我をしているらしい。立派な筋肉ばかりに目がいって、肝心な部分を見落とすところだった」
私はそう反省しながらふたたび男へと近づいていった。
ところが近くで見ると男の頭部を覆っているのは包帯ではなく、単に白っぽいバンダナだということが判明したのである。
すっかり騙されたと思って憤慨した私は早足で部屋に戻ると、壁の時計を確認した。
するとさっき部屋を出てから十五分ほどが経過していた。
「この時間を有効に使えば、これからの人生に必要になってくる知恵や知識が得られる格言などが、数十個ほど読めたかもしれない。痛恨のミスと云うべきだ……」
貴重な人生の時間は、まるで砂時計の砂のように減り続けていることを忘れてはならないだろう。
この砂時計そのものを反転させることは、どんなに筋骨たくましい人間にも不可能なのだから。