2019/07/20

夜中に急にアイスクリームが食べたくなり、
「こんなときのためにコンビニという便利なものがあるのだ。ぜひとも利用しよう!」
そう思った次の瞬間には私は玄関の外にいて、最寄りのコンビニを目指して歩きはじめていた。
家の近所にはコンビニが二軒あるが、そのどちらへ行くべきか定まらないまま歩いていたせいだろうか? 私はどちらの店に接近するというのでもなく、ただ夜道を意味もなく歩く時間だけが過ぎていくようだった。
そのとき突然頭上から声が聞こえた。
「どちらのコンビニに行くべきか決められないのですか? ならば私が決めてあげましょう」
驚いて見上げた私の視界に飛び込んできたのは、まるで巨大な紙をぐしゃぐゃに丸めたような何とも形容のしようのない物体だった。
「私は二者択一の不得意な人たちのかわりに、二者択一を肩代わりしてあげるために存在しているものです。とくに名前はないのですが……」
その物体はビルでいえば三階くらいの高さから、そのように深みのある中年女性のような声で述べた。
「では恐縮ですが、最寄りの二軒のうちどちらのコンビニへ行くべきか教えていただけませんか」
私がそう質問すると、空中の巨大な物体は返事をするかわりにがさがさと音を立てはじめた。
そして紙を丸めたような形状から変化して、夜空をバックにした一枚の巨大なメモ用紙のようなものになった。
「セブンイレブン」
そのメモ用紙のようなものの表面にはたしかにそう書かれていたのである。
私はていねいに感謝の言葉を述べると、早速セブンイレブンへと向かった。
だが途中でふと足を止め、
「あれって考えてみたら、最初からセブンイレブンって書かれたものが丸められてただけなのでは? あたかも親切を装っていたけれど、単に新手のセブンイレブンの広告なのかもしれないな」
そんな気がして白けた気分になってきた私は踵を返すと、あてつけのようにファミリーマートへ入店してアイスを購入した。
やはり消費者の一人一人が今よりも格段に賢くならなければ、このグローバル資本主義の世界では巨大企業が誰にも気づかれずに人々の自由の幅を狭めることなど、赤子の手をひねるように簡単にできてしまう。
しかしながら、このグローバリズムの迷宮には中心というものがなく、我々は決して正解にたどり着くことができないのも確かなのだ。
さっきの謎の物体が示した親切の正体が広告だと私は見破ったが、じつはそこまで消費者の行動として事前に計算され尽くしていて、実際にはファミリーマートがあの〈広告〉を逆に仕掛けた可能性も否定しきれないのである。
そして、この件についての答え合わせはおそらく永久に不可能だ。当の企業や広告代理店にさえ、個別の事例の正解をいちいち知る者が存在するのか極めて疑わしいのだから……。
このような重要な考察に私が夢中になっていたため、アイスは食べる前にすっかり融けていつのまにか路上の白い水たまりと化していた。
とはいえ、アイスを食べてから考察したのではあまりに遅すぎる。
今や資本のスピードは、ニューロンの情報伝達速度をはるかに超えているのだ。