2019/07/12

新品のスニーカーを履いて外に出ると、ただ歩くだけではもったいないような、素敵なスニーカーを風がさらっていこうとするので、自分も一緒に運ばれていくような気分になってしまう。
気がつくと私はいつもの散歩コースを大幅に逸脱し、まるで見たことのない場所を駆け抜けているところだった。
風に飛ばされる綿毛のような気持ちとは裏腹に、周囲はどことなく気の滅入るような眺めが広がっていた。乱痴気騒ぎの宴会から一夜明けたテーブルを、そのまま街並みに置き換えたような風景。私の知らないうちに近所で暴動でも起きたのか? と思うほどの惨状だったが、私の足は止まらずどんどん先へと進んでしまう。
やがて街並みは少しずつ変化を見せ、目の前で惨状から徐々に復興を遂げていくさまを観察しているようだった。
「もしかしてこのスニーカーはただの軽い履き心地のスニーカーではなく、時空を超えて見えるはずのない光景を見てしまうような、そんな隠れた機能を持つスニーカーとして私の元へやってきたのではないだろうか」
あんなに気分が落ち込むほどひどい眺めがみるみる立ち直っていくのを見ていると、そんな非常識な考えが頭の中に生まれてしまう。
そして周囲の景色が完璧に修復されて日頃の平穏な姿を取りもどしたところで、私は田中ビルの前に到着していた。
田中ビルと云えば、我が家から歩いて数分の場所にある平凡なビルだ。だが今日の散歩はどんなに少なく見積もっても二時間ほどは歩いていたはず。
この齟齬に、私が迷い込んでいたこの世の未知の領域というべき道のりが隠されているのだろう。
新しいスニーカーを履くことで、誰もがこんな人生のエアポケットのような旅ができるのかもしれない。
もちろんそのためには、履き心地の快適な良質なスニーカーが欠かせない。
ぴったりサイズのものを手に入れるにはネットではなく、実際に店に足を運んでプロの店員さんのアドバイスを受けるのが、とくに大事なところだ。