2019/07/13

近所の寺院の裏手には墓地があり、昼でもどことなく陰気な場所という印象だった。
とくに目的もなくその墓地の前まで来てしまった私は、歩いてやや熱を発している身体を休めるのに墓地の陰気さがちょうどいいのではと感じたのだ。
そこで入口から先に進んでみると、道の左右にずらっと並ぶ墓石の群れが壮観で思わずため息が漏れた。
他人の墓しかない墓地など特に用がないと思い、前を素通りしがちなものだ。しかしこうして中を歩くとなかなか非日常的な雰囲気があって、ある種の癒し効果さえ感じ取れると思った。
これからは毎日のように墓地を訪れてみようか? そんなことを考えはじめたが、実際毎日来てしまっては単なる見慣れた景色になってしまい、「見も知らぬ他人の骨が多数収納されている施設」という本来の印象に逆戻りだ。やはりごくたまに思いついてふっと足を運ぶくらいの関係が、私と墓地の間には築かれるべきだろう。
そう思いながら奥へ進んでいくと、周囲の墓石とはまるでスケールの違う巨大な石が、ちょっとしたマンションほどの高さでそびえ立っているのに出くわした。
「驚いたな、こんなでかい墓があるとは思わなかった。いったい誰の墓なんだろう?」
気になって目を凝らすと、一文字が私の背丈ほどのサイズで名前が彫られていることがわかった。
「巨大天皇之墓、か……」
そんな名前の天皇が存在したことを、不勉強ながら私は今まで知らなかった。
「さすがに名前に恥じないだけの巨大な墓が建てられているんだな。本人はどれくらいの身長だったのだろう? まさか本当に巨大な天皇で、十メートル以上あったためこんなに大規模な墓が必要になったんだろうか? とはいえ、こんな一般人の眠る墓地の奥に埋葬されているのだから、かなり庶民的な天皇と云えるだろう」
私はこの国に生まれて暮らしていることにとくに感想を持たない人間だが、この天皇にはどこか親しみを感じてしまい、思わず墓に手を合わせた。
墓地内はなぜか圏外だったので外に出てから調べたのだが、ネット上の歴代天皇に関する情報には巨大天皇に関する記述が見つからなかった。
いくら検索しても出てこないので、私は深くため息をついた。
「やはりネット上の情報など素人の知識の寄せ集めで、きわめて不完全なものだ。真の知識にアクセスするためには大学図書館などへわざわざ足を運ぶ必要があるのかもしれない」
今後はネットに頼らず、疑問があれば電話帳で学者の家を調べて直接電話して訊いてみよう。そう私は心に誓ったのだった。