2019/06/06

玄関のチャイムが鳴ると「何かの集金に来た人物が鳴らしたのでは?」と疑ってしまい、うかつにドアを開けるわけにいかないと思えてしまう。
もちろん、来客と云えば集金のたぐいだと決まっているわけではなく、単に気の合う仲間たちが美味しいワインやチーズなどを持ち寄ってわが家を訪れ、ちょっとしたパーティーを開こうとしているだけなのかもしれない。
それなら事前に連絡がありそうなものだが、何の前触れもなく突然来訪してびっくりさせてやれ、といういたずら心を起こした可能性も十分ありうるのだ、
だとすれば居留守を使ってじっと耳を澄ませ、玄関先の人物が立ち去るのを待つという行為は、せっかくの友人たちのアイデアを無下にするものだと云わざるを得ない。そんな友達甲斐のないことはしたくないのだが、うっかり開けたドアの外に見知らぬ人間が立っていて、慇懃な態度で私の今月の生活費を遥かに上回る金額を告げてくることを思うとパーティー気分は吹き飛んでしまい、ひたすら暗い表情で息を殺していることしか私にできることはなくなるのだ。
今日はそのようにして息をひそめているうちにいつのまにか眠ってしまい、気がつくと部屋はすっかり暗くなっていた。
だが、パーティーを始めるにはむしろ暗くなってからのほうがふさわしいのではないか? 暗くなってから集金の人間が訪れたとしても、それは実際には集金の人間に仮装した友人で、パーティーを開催するためにやって来てワインとチーズを隠し持っているのだ。
そう思うと私は安心してさっそく酒を飲み始めた。どのみち泥酔してしまえば、集金人も友人もただ人間というだけでいっさい区別などつかないのである。