2019/06/25

最近私は、誕生パーティーに出席する機会がないことに思い至った。
「どこかで誕生パーティーを行っている家はないだろうか?」
もちろんその家には、今日が誕生日の人が住んでいるのである。だとすれば、まずはそんな人を見つけ出すのが先決だ。
「一年は三百六十五日ある。ということは三百六十五人の人間がいる場所を訪問すれば、そこには今日が誕生日の人が一人存在する、という計算になる……」
私はあまりにもすらすらと自分のなすべきことが口から出てくるので、まさか誰か優秀な頭脳を持った人間が私のかわりに物を考え、導き出した結論を私の口の中に仕込んだ小型スピーカーから発表しているのでは? という疑いにとらわれた。
だが口の中に手を突っ込んでくまなくさぐってみたが、そんなスピーカーは見つからなかったのである。
「どうやらそんな仕掛けはなかったらしい。これで思う存分発言できるぞ!」
喜びのあまり私の声は大きくなり、通行人が何人か振り返ったほどだった。
だがその数はまだまだ一年の日数には遠く及ばない。これでは当初の目的が果たせる望みは大変うすいのだ。
「もっとたくさんの人がいる場所へ行かないとどうにもならないぞ!」
私は焦りのあまり自転車の漕ぎ方がわからなくなり、あれよあれよというまに電柱に衝突。すっかり鉄屑に変わってしまった自転車を乗り捨てて、そこからは徒歩で移動した。
「だが、周囲はますます寂しい景色になりつつあるので、これでは大勢の人の姿を見つけ出すことは奇跡に等しい」
たんに人がいないだけでなく、鬱蒼とした森の中にとらわれつつある私の周囲は不気味な生き物たちの鳴き声に満ちつつあった。姿こそ見えないが、声のバリエーションがさまざまな種類の生物の存在を知らせていたのだ。
「森には無数の生物の気配がある。ということは、ここには無数の誕生日を持つ存在がうごめいているということだから、今日が誕生日の生物だって一匹や二匹じゃないだろう。とはいえ、人間と違って彼らには誕生パーティーを行うような知能はないから、もしパーティーがお望みなら私自身が主催者にならなければいけないようだ」
私はパーティーこそ大好きなものの、自分が主催したことは一度もない。そんな発想がそもそも頭になかったのである。
「まるで自分はいつももてなされる側だと信じていたようで、恥ずかしい限りだ……」
今度機会があったら誰かのために思いきり豪華で心のこもったパーティーを開催しよう、と私は胸の中で誓った。
その「誰かに」なるのは、もしかしたらあなたなのかもしれない。