2019/06/01

昼頃郵便物を出すためにポストのある場所へ行くと、ポストがなくてかわりに貧相な顔の女が煙草を吸いながら立っていた。
「あ、郵便ですか? すみませんポストが今修理中なんでかわりに私が預かっておきますね」
そう早口に云って手を差し出した女は、郵便局員らしい制服も着ていないし身分を示す名札のようなものも見当たらなかった。
「責任もってお届けしますから安心してください」
そう云いながら女は私の手から封筒をひったくろうとしたので、私は驚いて悲鳴を上げた。
「何をするんだ!」
「お預かりしますよ」
「身分証を示せ!」
「そんなものありませんよ」
「じゃあ預けるのは嫌だ、別のポストに投函する!」
「どのポストでも同じですってば」
私はようやく封筒を女から奪い返すと、ぶつぶつ文句を云いながら早足でその場を離れた。幸い女は後を追ってくることはなく、ポストのあった場所にじっと佇んだまま恨めしそうにこちらを見ている。
「たしか川沿いのT字路のところにもう一つポストがあったはずだ……」
ちょっとした外出で済むはずの投函に手間取り、時間を取られていることに苛立ちながら私は川沿いの道を歩いていった。
やがてT字路が近づくと私は自分の目を疑った。
ポストがあるはずの場所にやはりポストが見当たらず、かわりに小柄で小太りな女が手持無沙汰な様子で立っていたのだ。
「あっどうも、郵便ですよね? 現在ポストが修理中なのでかわりに私が預かっておきますから」
女がそう云ってひょいと両手を差し出した。
私は郵便物をその女に預けて「じゃあよろしく」と片手をさっと上げるとその場を去っていった。
先程の女と違って、この女はなんとなく信頼できる気がしたのである。