2019/05/31

〈令和〉という名の新時代が到来してから早くも一ヶ月が経とうとしている。
新時代になってからというもの、この社会は何もかも変わってしまった。
隣の家の子供は毎日宿題にキチンと取り組むようになったらしく、母親の鬼のような怒鳴り声が毎晩聞こえてくることがなくなったのはその一例だ。
近所の野良猫が庭先に糞を残していくこともなくなったし、 我が家にムカデやナメクジなどが無断で侵入することもすっかりなくなったのである。
まさかこんなに何もかもが良いほうへ変わってしまうとは、私もまったく予想していなかった。いくら時代が変わると云ってもただ表面的なもので、同じ菓子をパッケージだけ変えて再発売するようなものだろう、と正直なところ高を括っていたのだ。
ところが蓋を開けてみればこの通り。世の中はまるで長い悪夢から目覚めたかのように突然素晴らしい状態になり、毎日「今日はこの社会のどんな素晴らしい部分を発見できるだろう?」と楽しみでしかたない。
そして期待を裏切ることなく、かつて「世の中はこんなもんだ」と諦めていた地獄のような状態が嘘のように改善されているのを、今日もまた発見することになるのだ。嬉しさのあまり公園のベンチから駆け出した私は、全速力でこの町の道路を一周してしまった。
「今日は安売りスーパーの商品がさらに安くなるどころか、豚肉が全部無料だった。今夜はさっそく豚しゃぶを腹いっぱい食べるぞ!」
そう甲高い声で叫びながら走っている最中も私は「明日はいったい何が無料になっているだろう? 牛肉かな?」と心の中で想像せずにはいられなかった。
もちろん、豚しゃぶよりも牛しゃぶが食べたいのは云うまでもない話なのだ。