2019/06/14

聞いているだけで優しい気持ちが湧いてくる、そんな心地よい鳥の声が隣家の庭先から聞こえていた。
だが隣家では猫を数匹飼っていたはずだから、あの声の持ち主はペットの鳥というわけではないだろう。猫は鳥が大好物だし、猫のエサにするためにわざわざ心地よい声で鳴く鳥を生きたまま買ってきた、とも思えないからだ。
だが、私は最近もう若くはないせいか、世の中の動きに若干遅れ気味なことを認めなければならない。
現実には「心地よい声で鳴く鳥を生きたまま買ってきて、飼い猫におやつとして与える」ということが愛猫家たちの間でひそかにブームとなっているのかもしれない。
その場合、表面的には「猫ちゃんたちの狩猟本能を適度に刺激することで老化を防止」などの効用がうたわれているが、実際は心地よい声で鳴く鳥が生きたまま飼い猫に食い殺される様子を見物して、飼い主の嗜虐心を満たすために与えられているのだ。
私は隣家のかわいらしい猫たちが口元を血まみれにしているさまを想像し、すっかり気分が悪くなった。
いくらそれが野生の本能に基づく行為だとはいえ、ペット化されたかわいらしい動物にそんな残酷な場面を演じさせるのは承服できない、今すぐやめてくれ! と叫びたくなったのだ。
何とかやめさせる手立てはないものか? そう思いながら隣家の庭を凝視していると、庭木から一羽の鳥が飛び立って近くの電柱にとまるのが見えた。
ごくみすぼらしい外見をした貧相な鳥だったが、その鳥は見かけとは裏腹になんと聞き覚えのある心地よい声でいきなり鳴き始めたのである。
すると私は急速にその鳥への関心を失い、窓を閉めると読みかけのかわいらしい猫たちの写真集のページに視線を戻した。
かわいらしい猫たちの老化防止のためなら、多少の貧相な外見の鳥たちの命の犠牲もやむをえないのは云うまでもなかった。
その鳥の声が心地よくてどうしても聞きたいというのなら、猫が食う前に録音しておいて、後で好きなだけ聞けばいいのである。