2019/05/08

ベランダにTシャツを干している家があったので、どんな柄のシャツなんだろう? という好奇心が湧いた私は立ち止まり、目を凝らしてみた。
だが微妙な距離と角度があるため、それがピンクの地に青いインクで何かがプリントされていることまでしかわからなかった。
ここから見えている部分だけをヒントに想像をめぐらせてみると、鋭い牙を持つ獰猛な獣が二頭、今にも互いに飛びかからんばかりの姿勢で睨み合っているイラストのように思えた。
ただ、そんな柄のTシャツに私はとくに魅力を感じることはなく、もし誰かにプレゼントされたとすればその場では愛想よくお礼を述べて「こんなセンスのいいシャツが欲しかったんですよ」などと喜んでいるふりをするのにやぶさかではないが、 実際には一度も着用しないことは目に見えている。
そんなTシャツを愛好する人のことを馬鹿にしたり、笑いものにしたりするつもりはまったくないし、そんな心無い行動をする人間を見かけたら注意する自信もあった。本当に自分のファッションセンスに自信のある者は、他人のセンスにとやかく口を出すことはしないはずだ。他者のセンスのなさをあげつらうことでようやく「自分はセンスのない田舎者で、陰でみんなから物笑いの種にされてるのでは?」という不安から逃れるという、綱渡りのような行動に出ている人間は少なくないだろう。
だから他人から笑われるようなデザインのTシャツでも、堂々と人目につく場所に干すことのできる人たちのほうが人間としてずっと上等だし、そのうえで時には自分のファッションセンスを省みて、磨き上げる努力を怠らないのが理想なのかもしれない。
そんなことが実行できているとは自分でも思えないが、もしあのベランダにTシャツを干している人物がそんな心掛けを持つのだとしたら、これも何かの縁だと思って応援したい気持ちでいっぱいであり、あのようなデザインを好む自分のことを決して卑下することなく、一般的な意味での「センスの良さ」にも対応できるようになることで自分の幅を広げてみてはどうか? というささやかな提案をしてみようかと空想しているだけなのだ。
それにはまず、あのTシャツの柄が本当に「鋭い牙を持つ獰猛な獣が二頭、今にも互いに飛びかからんばかりの姿勢で睨み合っているイラスト」なのかどうかを確認してみなければならない。
付近に高い木や建物などがないため、このままでは泥棒のようにベランダに侵入する以外に方法がないという袋小路に陥っていた。
ドローンを飛ばして、空中から撮影するというのはどうだろうか?