2019/05/03

毒のある生き物のような危険な雰囲気のただよう、六歳くらいの男の子が公園で一人で遊んでいた。
その表情にはこの世で起こるすべてのことを冷ややかに眺めるような、その年頃の子にふさわしくない悪魔的な微笑が宿っていた。
今はまだ体力的にも知恵の上でも非力な幼児だから、たんに不気味な子供だという話で済んでいるが、これが成長して危険な才能を発揮できる年齢になったら大変なことになる。多くの人間が彼の犠牲になって心身を痛めつけられ、それぞれの天寿を健やかに全うする権利を奪われることは目に見えているのだ。
そう感じた私は、悪い芽は早めに摘んでおくべきだとばかりに、金属バットを片手にその男の子に近づいていった。
「こんにちは、おじさん。世界は今日もミラーボールのようにきらきらと輝いているね。そうは思わないかい?」
子供はとくに無邪気さを装うでもなく、 顔を上げてそうなれなれしく話しかけてきた。
私はそれにこたえることはなく無言でバットを振り上げた。
ポコッ、という妙に軽い音がして子供は地面に横向きに倒れた。
「こんなに世界が輝いていると、自分も他人もその光に呑み込まれて区別がつかなくなってしまう。せいぜい鏡に向かって話しかけているような気分になれるだけだ。そんな状態では建設的な話し合いはまるで覚束ないが、そのかわり抱き合って涙を流しながら互いをひたすら許しあうような、ある種の恍惚の中であらゆることが解決する道があるのかもしれない」
金属バットの一撃によって顔の形が変形した子供は、地面に横たわったまま饒舌に語り続けていた。
声こそどこにでもいる幼児に過ぎないが、話の内容は人をたぶらかすのが得意な詐欺師の口上そのものだった。
だがこれだけ頭部が変形した状態では、せいぜいこの公園を訪れる人々相手にちょっとした寸借詐欺のようなものが働けるにすぎないだろう。
そう考えた私は彼にとどめを刺すことなく、公園を後にした。
どんな悪人にも我々と同じひとつだけの大切な命があり、それを取り上げる権利は神でもないかぎり誰も持ちえないのだ。
私は生命のすばらしさについていつものように思いをはせながら、今日も一人の死人すら目にせず一日を過ごせた幸福を神に感謝して、自宅への曲がりくねった道を歩いていった。