2019/05/27

注意深く歩いていたつもりが、つい水たまりにはまってしまった。それも思いのほか深かったため、その一歩を踏みしめると同時に、じわりと足の裏に水がひろがっていくのを感じた。
私は日頃さまざまな対象について考えを巡らせ、物思いにふけることが多い。だから天候などにはあまり意識が向かわないため、水たまりができるような天気の日が最近あったのか、思い出すことができなかった。
もちろんじっさいに雨の降っているときに無頓着でいることはできないため、天気予報などを気にしないかわりに、つねに鞄に折り畳み傘をしのばせてある。
少々荷物が重くなるのが難点だが、そのぶん意識のリソースをその日の天候の変化へと割かなくていいため、私のライフスタイルにはむしろ合っているのだと云える。
これは私と似たようなライフスタイルの人々、つまり知的な職業に従事する自由業者ということになるだろうか? そんな諸君にはぜひともお勧めしたいところだ。知的であることが必ずしも収入に結びつかない昨今、にわか雨のたびに視界に入ったカフェに駆け込んだり、ビニ傘を購入したりするのでは経済的な負担も馬鹿にならないのだから……。
さて、私は水たまりからゆっくりと足を上げると、それを手近な乾いた路面へと下ろした。
それからふたたびそっと足を持ち上げると、路面には私の靴の底の模様がスタンプのように印されているのが確認できた。
自分のふだん履いている靴の底の模様など、こんな機会でもなければめったに見ることはない。どんな失敗からもそこからしか取り出せない可能性を見いだし、すぐに頭を切り替えてその可能性に賭けられるということが知的な人生への第一歩なのである。
私は興味深く路面を眺めつづけた。時おり手帳にメモを取り、ひどく感心したように何度もうなずきながら。