2019/05/23

近所の老舗の洋食屋の前を通りかかったら、どうやら店を閉めてしまったらしくガラス越しに荒れ果てた店内の様子が見えていた。
「だが昨日や今日閉店したのなら、こんなに床に埃が積もったり、天井に蜘蛛の巣が張ることもないはずだ。まさかこんな不衛生な店内で料理を出していたとは思えないし……」
私が腕組みをして考えごとにふける姿が、暗い店のガラスに映し出された。
問題に真摯に向き合い、自分の知力を惜しげもなく投入していることが丸わかりのそのポーズに自分でも驚き、少々恥ずかしく思ったほどだった。
これではまるで「私はインテリでござい」と町をゆく見ず知らずの人々に向けて宣言しているも同然ではないか?
そういうことを臆面もなく積極的にアピールすることで「自分はこういう人間なんです」と主張し合い、お互いに認め合ったうえで先に進みましょうというのが欧米の流儀だということは、私も教養としてはもちろん心得ている。
だがここはあくまで日本という僻地なのだ。欧米の先進的なやり方をそのまま持ち込んでも余計な反感を買うだけだし、猿のように顔を真っ赤にして怒り狂う未開人たちに腐った寿司などを投げつけられたのではたまらない。
この国では周囲に自分を完全に溶け込ませ、壁の模様のように無害なことをアピールして初めて社会の一員としてスタート地点に立つことができる。諸外国の常識から見ればびっくり仰天の風習だが、文明国との交流を長年続けてもいっこうに改まる気配がないようだ。
こういう話は場合によっては差別的に響くかもしれないので慎重にならねばならないが、かれらの住む島々の空気や水、または独特な食生活などに何か有害な物質が紛れ込んでおり、人々の文化的な成長を妨げているのでは? とつい心配になってしまうほどだった。
思えば目の前のつぶれた洋食屋は、エビフライやハンバーグなどの西洋文明に由来する料理を供する店として、回転寿司やうどん屋が幅を利かせるこの界隈で健闘していたのだ。
そう思うと荒れ果てた店内の様子が、未開人に襲撃され破壊され尽くした教会のように見えてくる。