2019/05/14

同じ町の中でも、地区によって治安のよさには雲泥の差があるものだ。時には通り一本ずれただけで、平和な住宅街が犯罪と薬物汚染にまみれた危険地帯に変貌することもあるらしい。
私の住むこの町は、基本的にはありふれたベッドタウンであり、結婚して子供を育てているようなもっとも犯罪からほど遠い善良な人々が生活する明るい雰囲気の土地である。
だが目を凝らしてよく見れば、地域内に単身者用のアパートがいくつか紛れ込んでおり、そうした建物に住んでいるらしい中年男性の中には、平日の昼間に近隣をうろついている不審な人物もいるようだ。
おのずとアパートの周囲の治安は悪化し、今にも凶悪な犯罪が発生しそうな雰囲気に怯えて一般の人々の表情は曇りがちだ。あんな犯罪の温床になりそうなアパートはすぐにでも取り壊し、跡地に家族向けの住宅や児童公園などをつくることで治安の回復を図りたい、というのが人々の本音である。
だが昨今は犯罪者予備軍というべき無職男性の排除を露骨に打ち出せば、差別だという非難を受けかねないご時勢だ。とはいえ何かが起きてからでは遅いので、大人たちが積極的に近隣をパトロールすることでどうにか犯罪を未然に防いでいるのが現状なのだ。
私も未来のある子供たちの安全のために、自主的に防犯の標語などを書き込んだタスキを着用してパトロールに参加している。
標語を考えるのはとても楽しく充実した時間であり、それだけで一日が過ぎてしまうことも頻繁にあった。
この一か月ほどはほとんど標語づくりに打ち込んでいたため、日替わりで違う標語の書かれたタスキを掛けて毎日10時間以上近所をパトロールすることができた。
おかげで私は地元の子供たちの人気者となり、遠くから指さされることもしょっちゅうだった。しかしながら、好奇心あふれる顔で近づいてこようとする子供はなぜか保護者らしい大人によって必死に引き止められていた。
私があまりに熱心にパトロールを続けているため、邪魔をしてはいけないという配慮なのだろうか?