2019/04/30

目覚める間際まで見ていた夢が、寝床の私にしばらく奇妙なポーズを取らせていた。
まるで巨大な本棚の奥に迷い込んで一冊の本に手をのばそうとしている姿、と云えばいいだろうか。その本棚は私の住んでいるアパートなどよりもよほど巨大なもので、しかも人間は本の隙間を遠慮がちに進むことしか許されておらず、自分が今本棚のどの位置にいるのかさえ把握しがたい有り様なのだ。
おそらく私が求めている書物は、この残酷なまでに人々に苦痛を強いる世界を根本的に改革するためのヒントを、はっとするような格言やひらめきを促すイラストの形で数多く提示しているものだ。そんな本があればいいなと日頃から心の片隅で思い続けているので、夢という格好の舞台がその本の印刷や製本を買って出たのだろう。
とはいえ、実際に手に取ってページを開いた場合、私の期待に応えるだけの内容がそこに書かれているとは思えない。私の脳がつくり出した書物である以上、私の思いつくこと以上の内容を印刷することは不可能だからだ。
そのため、私の幻滅を先送りしようとして本棚は複雑に迷路のように入り組み、せっかく出現した本は私に読まれまいとしてその迷路の奥へと逃げ込んでいくのだ。
目が覚めたのは、私の手を逃れることが限界に達した本を守るために、夢がすべてに乱暴に幕を引いたからだと思われる。
だが私は今でも心のどこかで、あの喉から手が出るほど欲している本の実在を信じているのかもしれない。もし実在していると仮定すれば、その本のすべてのページは人間の皮膚でつくられているはずだし、表紙には顔の部分の皮膚が使われているのは間違いないだろう。
材料になる皮膚は、その本を手に取って読もうとしている人自身の体から取られているのだ。