2019/04/11

美術館や博物館、映画館などの施設では、利用者のための売店が設置されていることが多い。そこで売られているのは、簡単な飲食物の他にはその場でしか買えないようなグッズなどだが、たとえば私の住むアパートの側面に売店が併設されるとすれば、そこではいったい何が売られるべきなのだろう?
このアパートに住む他の住人のことは何も知らないから、 まるでアンケートを取ったかのように住人たちが必要とするものの例をここで列挙することはできない。グッズという意味でなら、アパート名の入ったキーホルダーなどが妥当なところだろうか。それならば食品と違って、時間が経てば廃棄しなければならないという問題も生じない。そしてごく一般的な、清涼飲料やビールといったドリンク類と、ポップコーンや菓子パン程度の取り扱いがあれば、そこが売店だということをとくに宣伝しなくともひと目で理解させることができる。
売店の売り子とは、必要最小限の会話にとどめるべきだ。ご近所の顔見知りのような挨拶を交わしたのでは、まるで興ざめと言うべきだろう。そんな「売店のある日々」のことを考えながら毎日を過ごしていると、窓の外をよこぎる猫の影なども「休憩時間が終わって売店に戻ってきた売り子」のような気がして、思わずあの氷だらけのコーラを買いに行こうと腰を浮かしそうになる。
そこでハッと我に返り、私は台所でとくに金を払うこともなく蛇口をひねってコップに水を注いだ。
そのときふと、水道水は下から読んでも水道水だということが頭に浮かんだ。
私は誰に伝えるでもなくそのことをつぶやくと、おもむろに水を飲み干したのだった。