2019/02/01

帽子に鳥のとまっている男が通りを歩いていた。
「帽子に鳥がとまっていますよ」
私は親切にそう教えてあげた。
「どんな鳥です?」
男が訊ねた。
「黒くて大きいから、たぶんカラスじゃないですかね」
私はそう答えた。
「なら、いいんですよ」
男は言った。
「カラスは飾りなんですよ」
そう言いながら男は帽子を脱いだ。
なるほど、男が手にした帽子には黒い大きな鳥が身じろぎもせずにとまったままだ。
「カラス以外がとまってたときは、教えてください」
男はそう付け加えながら帽子をかぶり直した。
「その場合は、追い払わねばなりませんので」
どうしてカラス以外は追い払うのか? 一羽も二羽も大して変わらないんじゃないのか?
そんな疑問を私は口にすることができなかった。男はすでに道の彼方へ遠ざかっており、まもなく曲がり角のむこうへ消えていくのである。