2019/02/06

床を見ると小さな豆のようなものが落ちていた。
「節分の日に撒いた豆だろうか?」
そう思って拾い上げようとした私はふとその手を止めた。
「いや、今年は豆撒きなどしていない。これは何者かが無断で侵入し、節分の豆に見せかけた盗聴器を仕掛けていったのかもしれない」
私はそう考えて震えあがり、そっと豆から後ずさりしていった。
「だがよく考えてみれば、私は去年の節分から一度も部屋の掃除をしていないはずだ。これは単に去年撒いた豆の名残りなのだろう」
そう気づいてほっと胸をなでおろした私は、ふたたび豆に近づいていった。
「いや待てよ、去年も私は豆撒きなどした覚えがない。ということは、これはやはり豆に見せかけられた盗聴器なのだ」
あわてて飛び退いた私はうっかり壁に頭を強打して、その場に倒れ込んだ。
「だが考えてみれば、その前の一年間も私は部屋の掃除など一度もしていないはずだ」
おととしの節分に私は豆撒きをしただろうか?
頭を強打したせいだろうか? その点に関する記憶が戻ってくることはついになかったのである。