2019/02/13

わが家の周囲はつい最近まで住宅地だったはずだが、今朝気がついたらほとんどが墓地になっていた。
「これは住人が死亡したので手間を省いてそのまま家を墓地に転用したのだろうか? それとももっと複雑な過程を経て、まったく無関係な人々の墓がなぜか住宅の跡地へと引っ越してきたのかもしれない」
私はたいそう好奇心を刺激され、つい早口でそのようなことをまくしたてた。だがそんな無遠慮な独り言を耳に入れるようなご近所さんも、今では存在しない。そう思うとなんとなく寂しいような、薄気味悪いような不思議な感情が胸に沸き起こってきた。
「こんなめったにない気持ちに襲われている今こそ、何かふさわしい歌を咄嗟に詠まなければならないような気がする……」
私は歌人という名の「言葉のアーティスト」なので、当然のようにそう考えると窓辺に立ってしばらく外の景色を眺めつづけた。
そうして数十分にわたって外を凝視していると、まるで霧が晴れたかのように陰気な墓地が目の前から消え去り、見慣れた平凡な住宅地が姿を現した。
「やれやれ、非常に稀有な事件が巻き起こったのだとばかり思っていたのだが。単なる目の錯覚だったのか」
私はがっかりしてそう吐き捨てると、腹いせにそのへんに落ちていた何らかの家電のリモコンを拾い上げて、思い切り窓に投げつけた。
すると運悪く窓をリモコンが突き破り、音をたててガラスが割れてしまった。おかげて寒風が常時吹き込んでくるとても寒い部屋になってしまったことを、今では大変残念に思っているのである。